2010年10月5日にアップされたNEWCITY MUSICの記事を翻訳、意訳して掲載します。
現地での活動はもちろん、音源作成やディストリビューションに至るまで、なかなか興味深い内容です。
登場バンド:CSTVT、Joie De Vivre、E!E!、Tigersjaw等
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たくさんのイベントに足を運ぶ人だけががわかる、人々がバンドのマーチャンダイスに見とれるライブ前の独特の雰囲気。
そこには新デザインのTシャツや、ファン心をくすぐるツアー限定のヴァイナル等が置いてあるのが常だ。

しかし8月上旬、Logan Squareで行われたショウで最も興味を惹いたNick Wakimの所属するバンドCastevet(現在の表記はCSTVT)のアイテムは、既に手に入れることができなかった。
このシカゴカルテットの最新アルバム「The Echo & The Light」が、日本のレコードストアで陳列されている写真がある。Nickは、彼のiPhone4に保存したその画像を他のミュージシャンに見せながら、「俺たちは日本ではちょっと有名なんだ」と冗談めかして言った。「実際そんなことはないんだけどね」とも。
ジョークはさておき、このCSTVTの成功は、"大したこと"である。彼らと同じような頻度でアンダーグラウンドでライブをするバンドにとっては、日本のStiff Slackのような海外のレーベルからリリースをする機会はほとんどない。CSTVTは何か大きなことになりつつある。そしてそれが、emoという大きなうねりとなっている。

80年代半ばポストハードコアシーンの中にあったワシントンD.C.で、Emo、もしくはemotional hardcoreが重きを占めるサウンドとなって以来、これらは多くの変化に直面してきた。近年で最大の歴史の繰り返し、と言えば、Fall Out BoyやMy Chemical Romanceのような、ポップパンクの大衆的なメロディとemoの内省的な歌詞を併せ持ったバンドが、ビルボード・チャートのトップ1、2にそれぞれ名前を連ねたことだろう。Emoはこのような成功とともに、反発の波を受けることになった。英国のタブロイド紙は、単調な模倣バンドが増えていたのを見て(それがたとえ他のジャンルであっても)、emoはカルトだ、と糾弾したこともあった。

しかし、CSTVTは、先述したような"ブランド化されたemo"の一部ではない。
彼らのネコの鳴き声のようなヴォーカル、尖ったサウンドは、今日のポップチャートにタグ付けされたemoより、90年代にBraidやSmall Brown Bikeのようなバンドが生み出したものに近い。
新たなサウンドでもって、ジャンルをリブランドするために過去のemoまでリスナーに掘り下げさせるようなバンドは、CSTVTのみではない。
州をまたぐが、Algernon CadwalladerEmpire! Empire! (I Was a Lonely Estate)、Pianos Become The TeethAnnabelTigers Jaw1994!Everyone EverywhereMonumentなど、数えきれないバンドがそれぞれ80〜90年代の絶頂期のemoにインスピレーションを受けて、今日、新たなノイズを奏でている。

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「おもしろい音楽だよ。歌心が芽生えて、つきまとうようになる。その歌心をとりはずしたり、どうにかすることはできないけど、今度は自分で歌を書いてみたくなるんだ」

D.C.のMonumentというバンドのギタリストであるAnton Kroppは、メールでこう答えてくれた。
「僕にとって、子供の頃愛して止まなかったものや屈折させたものに立ち返ろうとするのは成長する上でごく自然な過程なんだ。Monumentのメンバーの何人かは数年、ハードコアバンドでプレイしていたけど、実際みんなが口を揃えて大好きだって言うのはthe Get Up KidsやI Hate Myself、American Football、Braid、とかだね。」

Antonと彼のバンドメンバーがフェイバリットに挙げるクラシック・ミッドウェスタン・エモはAmerican FootballやBraidと同系統のもので、これらがMonumentに影響を与えているのは明白だ。
Monumentのサウンドは、emo黎明期の権化とも言うべき一種のカタルシスと、若さゆえの推進力をまとっている。幸運なことに、Monumentとそのまわりのバンド達は、決してemo全盛期のカーボン・コピーではない。今日のシカゴシーンのアンダーグラウンド・エモは90年代の名残ではあるが、決して古くなく、最新のものであると言える。

シカゴは90's emoのパワープレイヤーが集まる街であった、そしていまでも、まぶしいほどに輝くエモーション・アクトの中心地のひとつである。CSTVT以外にも、トルバトゥール(吟遊詩人的な)・スタイルのInto It, Over It、ガリッとしたギターパンク傾向のGrown Ups、甘いポゴダンス・ポップ・パンクThe Please & Thank Yous、規則的でマス構成のCopingなどがこのシーンの新たな顔ぶれである。また、シカゴは、町境のロックフォード(イリノイ州)で活動するセクステット、Joie De Vivreにとっては、ホームタウンのようなところでもある。

emoという言葉が禁句となってしまう前の日々に戻りつつあることを感づいていたバンド達は、同郷の、そして地元の強固なコミュニティを完成させたのである。

「いったいどれだけのバンドがemoに立ち返ろうとしていたかはわからなかったね。」とJoie De VivreのギタリストであるPatrick Delehantyは語る。「でもみんな目覚め始めているよ」
Patrick自身もそのような人々のうちのひとりだ。3年前にJoie De Vivreに参加する前は、彼のプレイする傾向はまったくemoではなかった。
「Mineralが誰だかわからなかったし、Sunny Day Real EstateやFugaziみたいなパイオニア的バンドのことも何も知らなかったよ。Chris(Joieのギタリスト)が僕にそういうバンドを聴かせてくれて、最終的に恋に堕ちてしまった、ってところかな」
Patrickの周りのプレイヤー達が、彼にこのジャンルへの試金石的なものを垣間見ていたか否かに関係はなく、3年という期間は、彼ら自身に独特のエモーションを生み出させるには、十分な期間のである。

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Keith Latinenを取り上げよう。
ミシガン州のフェントン生まれ。Empire! Empire!の発起人。
このバンドは、2006年にはすっかりMineralのようなmid 90's emoバンドの恩恵を受け、emoとともに、Keithは強力な音楽の表現方法を発見していた。

「それを聴いたとき、心臓がぐいっと引っ張られる感覚に陥ったんだ。そして今でも続いてる」

Keithはこうメールに書いてくれた。
「音楽はとても純粋、きめ細やかで、人生や美しさ、そして欠点すらも賞賛し補ってくれる。一瞬で包み込んでくれるような生命力を、音楽で表現できないかと思っているよ」

このバンドを形成するのと平行して、Keithはこのようなグループを見つけやすくするフォーラムも生み出した。

「新しい7インチを録ろうと思っていたけど、誰もサインアップしたがらないだろうな、と感づいていたんだ。それで、この音源をリリースさせるためのレーベルを始めればいいんじゃないか、と。同時に同じような状況の友達のことも考えたら、彼らのサポートにもなるんじゃないかと思いついたんだよ。」

2007年の1月16日に、KeithはEmpire! Empire!の1stEP"When the Sea Became a Giant"を、自身の新レーベル、Count Your Lucky Stars Recordsからリリースした。それ以来、この27歳の男は、Joie De VivreやCSTVTなども含め、国内の多くのバンドの17枚の音源をリリースさせている。(2010年10月現在。Keithは28歳になった)

Commerce Township Community LibraryでのKeithの仕事がレコードを生み出す一助になっていると考えれば、三年間で10以上の音源をリリースすることは、決して些細なことではない。
CDリリースにかかる一般的なコストは1500ドル。ヴァイナルでのリリースはそのカラーやサイズ、重量に大きく左右される傾向にあるが、最小でも1500ドル。(とはいえこの1500ドルという価格も、物理的にヴァイナルを切り出す高価な生産方法からすれば、かなり低い見積もりだが)

CYLSのデジタルリリースの売上げはTunecore(iTunesとのパートナーシップを持っているデジタル音源販売サイト)、eMusic、Amazonなどその他多くのサイト、さらにアップロード1アルバムあたりの年会費用に当てられる。そしてCYLSがアルバムリリースにかかった費用をまかなったあとに、残りの売上げが均等にバンドとレーベルに分配される。
必至の資金繰りではないが、時間、お金、労力を自身のレーベルに注ぐことができているので、Keithは満足しているのだ。

そしてKeithだけが、emoレコードをリリースする小さなレーベルを営んでいるわけではない。
2008年、Chuck Daley,、Will MillerとJeff Meyersの三人はTiny Engins Recordsを設立させた。
(JeffはノースキャロライナのシャーロットでBeartrap PRという音楽宣伝会社を経営している)
二年間でCSTVTの最新アルバムを含む、4枚のレコードをリリース。
TopshelfやBe Happyなどのレーベルも、emoにゆかりのあるラインナップでそのブランドを確立させた。

これらの小さな自営レーベルがアトランティック・レコーズの脅威とならない限り、オーナー達はリスナーがemoに飢えているとわかっていた。Tiny Enginsは何ヶ月ものトラブルの末、レーベル2作目となるTigers jawのEP"Spirit Desire"を450枚売り切った。もちろんこの枚数はピーナッツのように小さく見えるかもしれない。だが、シアトルのプロト・グランジ・バンドのMelvinsが、ビルボードデヴューに売った最新アルバムの枚数が3000未満であったことから、Tigers Jawがビルボードを破ることができたかも知れないことは、想像に難くない。

このようなバンドが小規模な人気を得ることは、最新のemoが全国的に支持をうけていることを示している。
この恩恵のひとつがインターネットであり、リスナー達はCSTVTを見つけたように、さらに小さなバンドを探し当てるに至っているのだ。

Nick(CSTVT)は「ブログやTwitter、それらに該当するもののおかげで、友人や、知らない人達も同様に音楽をシェアするのが簡単になった」とメールで解答してくれた。「僕たちがインターネット上に自分たちの音楽を上げてから、たくさんのアクセスが可能になったと思うよ」

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メジャー音楽市場が新世代のemoを無視し続けて、また、ピッチフォークがそれをあざ笑っている間、
ファン達は、バンドがより新しい世代のためにemoの再開発を試みている、と判断付けたのだ。
それは、Joie De Vivreが6月に初めて東海岸をツアーしたとき、Patrickが目の当たりにしたものでもある。

「演奏したいたる所で、ひとりふたりのキッズが、一緒に歌ってくれていたんだ」
6月以前、ニューヨーク市でのライブを考えたこともなかったミュージシャンにとって、このツアーは現実的な手応えを感じるものになった。

Patrickの経験は、国内数多のアンダーグラウンドemoバンドのものの反映でもある。
ローリングストーン紙ではニュースにならないかもしれないが、彼らはショウに逃さず足を運んでくれたり
レコードを熱心に買い求めるファンを強く望んでいたのだ。
emoサウンドのファンが、今日のアンダーグラウンドemoバンドの生み出すものに心酔し愛を持っているのなら、US全体のシーンはemoのイメージを一新することができるかもしれない。
そしてできることならもう少し、日本でのリリースが増えていくと良い。

(文:Leor Gali)

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